「お前、建築を難しく考えすぎるなよ。」
いつ振りだろう、アトリエへ行くのは。
2017年以来だから6年振り。
松江・出雲の仲間と一緒に見学させて貰う予定で
比治山のアトリエへ伺った。
じっくりと中を見て回るのは大学院時代以来、20年振り。
その時は、どちらかといえば、模型作りの合間に
こっそりと空間を見ている感じだった。
(6年前の訪問も同じ心境だった。)
比治山のアトリエは、
電車通りに面して平行に建っている。
敷地は電車通りと比べて高低差があり、
少し上った先にピロティの駐車場がある。
ピロティの高さは、体感で2.0mを切る。
靴を履いているから室内で感じる高さよりも
スケールが低く感じられる。
村上先生の特徴の一つがピロティに込められている。
元スタッフで建築家の吉田豊さんの到着を待つ間、
ずっと緊張しっぱなしだった。
一緒に来た仲間も伝染したようで
言葉数が少ない。
吉田さんのご案内で
アトリエ内へ足を踏み入れる。
村上先生はずいぶん前から待っている様子で
気配を感じたのか、1階まで降りてきて下さった。
2階に執務スペースがあり、
ガラスで囲われた階段室を上る。
1階の階高は、4,050mm。
四角い螺旋階段をくるっと上る。
出口は東方向。
2階の天井高さは1階と同様に3,720mm。
非住宅スケールのある空間。
開口部も2か所しかなく、(ただし巨大)
コンクリートのセパ穴部分に
丸いFIXガラスがはめ込まれている。
適度に明るい空間。
そして圧倒される空間。
学生時代は威圧感を感じたけど、
多少残しつつ、伸びやかでおおらかな空間。
吉田さんの子どもが床に寝そべっている。
子どもは素直でシンプルだ。
僕が学生時代から好きな空間は
3階へ行けば分かる、と思っている。
早く確かめたい。四角い階段をもう1階分上る。
今度は、2階と正反対の西方向が出口だ。
3階の天井高さは、2,160mm。
2階との天井高さの差は、1,560mm。
この2階から3階の空間の差に
身体がびっくりし、圧倒される。
こんな経験は、フランスのシャルトル大聖堂以来の経験で
先生の原点を見る。
This is 空間。
これが、建築。
これが、建築家。
1階も2階も3階も平面プランは同じ。
階段の位置も変わらない。
なのにこんなに違う!
不思議に思ったけど、一つのヒントが見えた。
階高の差だから、四角い螺旋階段の
出入口が2階は東面。(正面に本棚で、大空間は感じない)
3階は西面から出入りする。(正面は、プラン上、大空間に面する。ただし天井は低い)
出入口の方向が違うが故にその階の印象も変わる。
狭い所へ出るか、広い所へ出るか。
階によって変えると
その効果も、空間差に影響して身体に響く。
視覚だけでは得られない、身体全体で感じる空間。
3階では、村上先生が直々にSUSサッシを動かし
説明してくれる。
驚いたのは、竣工25年でもSUSサッシがスムーズに動くこと。
「SUSで作るとサビないから、メンテナンス無しで動くんですよ」
ずっと、カッコ良さだけでSUSサッシを使っていると
思い込んでいた自分がどれだけ浅はかだったのか。
メンテナンスに目を見張っているからこそ
広島で尊敬され、愛される理由なんだろう。
最後に、冒頭の言葉に触れてレポートを終える。
2018年3月3日㈯退官記念パーティの席で
一言だけ僕の目を見て言われた言葉が、
「お前、建築を難しく考えすぎるなよ。」だった。
返事も出来ず、動揺してしまい、『俺って難しく考えてる?』が
ぐるぐると頭を回る。
もう他の事に集中できない。
その後の記憶はほぼない。
今回お会いするまで、僕らの会話はこれが最後で
しかも、こちらは一言も返せなかったので、会話にもなっていない。
これが最後かもしれないと思って、
5年振りに言葉の真意を聞いた。
もっとニュートラルに
肩の力を抜け
80-90%の力で設計しろ
言葉の意味がようやく分かるようになった。
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